仕事帰りや旅先で、気になったお店にふらりと入ってみたい。誰かと約束していなくても、もっと気軽に飲みに行きたい。そんな風に「ひとり飲み」を楽しむ女性が増えています。 自由にマイペースに楽しめる、女性のひとり飲みにぴったりなお店をご紹介します。
【閉店】ゆるりとひとり飲みを楽しみたい夜に、池尻大橋『季節料理・酒処 さそう』
程よい距離感が心地いいお店『季節料理・酒処 さそう』
一人で飲みに行く理由のひとつとして「何となく今日は誰かと話したいな」というときがある。
仕事に追われてちょっと疲れた一日の終わり、たまたまぽっかり時間が空いた夜、心がモヤモヤすることがあった日…他愛のないおしゃべりや世間話は心のデトックスやリフレッシュにとても有効なのです。
かといって、マスターや常連さんがやけに親し気なお店もちょっと違う。やたらハイテンションな人が集まるノリノリなお店とか、「みんな仲間だよね!」みたいな一体感が強いお店は、自分も周りの空気に合わせなくちゃと無理にはしゃいでみたりして、店を出た瞬間どっと疲れたり…そんな経験をしたことはないだろうか。
そう、お店は「距離感」が重要なのだ。人と話したいけどグイグイ来られるのはいやなの! なんか面倒くさいなぁ。あ、私か?
そんな風に「人と話したいけど自然体でゆっくり過ごしたい」という夜におすすめのお店が『季節料理・酒処 さそう』。
入口に目立つ看板はなく、さりげない佇まいはうっかり通り過ぎそうなほど控えめ。ドアに貼られた『SASOU』の店名と、軒先に置かれた植物が目印です。
お店は池尻大橋駅を地上に出て、国道246号から斜めに延びる路地を入って数分。首都高速道路が通る246号線は車がひっきりなしに走るどこか無機質な印象があるけれど、一歩路地を入るととても静かで落ち着いた住宅地です。
扉を開けた瞬間に「このお店は居心地がよさそうだな」と、何となく直感で感じる。シンプルですっきりとした店内には、手触りのいい大きな一枚板のカウンター。背もたれの付いた木の椅子もゆったりとした造りで身体にしっくりなじみます。
カウンターの向こうで出迎えてくれるのは、店主の佐宗桂さん。すらりと背が高く、上品で穏やかな空気をまとっている方です。
居心地のいいお店の店主は、初対面でも人を緊張させないオーラを持っている。佐宗さんの柔らかな笑顔に、店に入る前のドキドキした気持ちはすっかり薄まり、安心感が広がります。
両親とも料理が好きな家庭で育ったという佐宗さん。子どもの頃から食への興味が強く、将来は料理を作る仕事に就きたいという思いがあったのだそう。料理専門学校で日本料理を学んだのち、都内の和食店やベトナム料理店で料理人としての経験を積みます。
「将来は自分のお店を持つ!という明確な決意があったわけではないのですが、独立したきっかけは、2011年に起きた東日本大震災。人生にはどんなことが起きるかわからない、ということを目の当たりにして価値観が変わったというか、自分が今やりたいことをしようと思ったんです」。
そんな思いから一念発起し、2013年に『季節料理・酒処 さそう』をオープン。女性客が7割、年齢層も高めという客層は女子のひとり飲みにも最適。
季節の野菜をふんだんに使った創作家庭料がお酒と好相性
カウンターに腰を落ち着けて、冷たいビールをひと口飲むと「ここからは自分の時間」という開放感と楽しさが沸き上がってきて、早速くつろいでしまう。ひと息ついたら、黒板のお品書きを眺めて料理を選びます。
『さそう』には野菜を使った料理が多いのが特長。佐宗さんの実家である埼玉県秩父の長瀞で母親が作っているという、朝採れの無農薬野菜がふんだんに使われています。
「プラムソースで食べる生春巻き」「梅干し入りの和風ポテトサラダ」「ブリとオクラとピーマンの餃子」など、素材の組み合わせに意外性のある、斬新なメニューに興味津々。
「アジアや沖縄が好きで、旅先で覚えたいろいろな国の家庭料理を日本風にアレンジすることが多いですね。暑い国には、野菜やハーブをたっぷり使った料理がたくさんあるでしょう? 野菜をメインに、肉や魚は野菜のおいしさを引き立てるアクセント的な感覚で取り入れています」。
和食からエスニック風の料理まで「これってどんな味なんだろう?」と好奇心を刺激されるメニューに悩むこと確実。ひとり飲みの人には少なめのポーションに調整もしてくれる気遣いがうれしい。
ひとり飲みのスタートにぴったりなのが、旬の野菜やフルーツを使った和え物やサラダ。
「桃とトレビスとくるみの和え物」は、やや固めな桃の歯ごたえと甘みに、トレビスの程よい苦み、香ばしいくるみのアクセントが絶妙。隠し味のディジョンマスタードも効いていて、お酒によく合います。
「青なすとモロッコいんげんとおくらのサブジ」は、青なすのくにゅっとしたジューシーさと、いんげんとおくらのポリポリとした食感が心地よく箸が止まりません。クミンやキャラウェイシードなど数種のスパイスのほか、ポイントは「すりごま」。程よいスパイシーさが野菜のおいしさをぐぐっと引き出しています。
佐宗さんの料理はどれもシンプルで、どちらかといえば軽やかな味わい。なのに、思わず「おっ!」と唸るような、絶妙な深さや余韻がある。味付けを聞いてみても、塩やオイル、お酢など、どの家にもある基本的な調味料。だけど、自分では絶対再現できない感じの味なのです。
料理とお酒の組み合わせを自由に楽しむのが『さそう』流
『さそう』はお酒のメニューも魅力的。品揃えは決して多くないけれど、ビールや焼酎、純米酒、自然派ワインまで、自らも酒好きを自負する佐宗さんが料理との相性を考えて選んでいます。
ぜひ味わいたいのは、自家製果実酒で作る「季節のフルーツのチェッロ」。この日はプラムのチェッロをソーダ割で。
甘く爽やかな口当たりながら、スピリタスがベースなのでアルコール度数は高め。意外と酔いやすいお酒なので「女性は2杯まで」というルールだそう。
ほか、国産のウイスキーやラム酒などのスピリッツも、思いのほか野菜料理と好相性。合わせるお酒で料理の表情も微妙に変わってくるので、アジア料理と日本酒、餃子にワインといったようにいろいろな組み合わせで飲むのが楽しい。
お酒もほどよく進んでいい気分、まだお腹にも余裕がある…というわけで、後半はパンチのある揚げ物をチョイス。
「沖縄もずくととうもろこしのかき揚げ」は、とうもろこしの瑞々しい甘さ、シャキッとしたもずくの歯応えにお酒が進みます。つなぎに山芋を使っているのでしっとりした食感。添えられた塩が辛すぎずやさしい味で、これがまたおいしい。
あるいは、台湾の玉子焼きをイメージしたという「モロッコいんげんとズッキーニの玉子焼き チリポン酢ソース」もひとり飲みの締めにおすすめ。
熱々ほわほわなオムレツの中には野菜がたっぷり。やさしい味ながら、チリソースにポン酢を合わせたソースとパクチーがエスニック気分を盛り上げ、アジアへ旅したいな~という思いが、ほろ酔いの頭に浮かんできたりします。
こうして料理とお酒をいただく間も、佐宗さんは料理の説明などをしてくれつつ、つかず離れず適度な距離感で接してくれるのがひとり飲みにはうれしい。
最近の天気の話から、パートナーの愚痴、海外旅行先で怖い目に合いそうになった話、クマの出没情報まで、どうってことのない会話がなぜこんなに楽しいんだろう…。おいしい料理とお酒を味わいながら、じんわりと心がほぐれていくのがわかります。
そんな合間にも、手際よくササッと手を動かして次々と料理を作り出す佐宗さんは、なんだか魔法使いのよう。
彼女の所作には淀みや力みがなく流れるような滑らかさで、店内の空気や会話を妨げない。それもこの店の心地よさの理由のひとつかもしれません。
ふと気づけば周りのお客さまも交えつつ、カウンターにはゆるやかな会話の輪ができていました。楽しい時間はあっという間に過ぎて、だからやっぱりひとり飲みはやめられないな、と大人の自由の幸せをしみじみ嚙みしめるのです。
店内はカウンター6席なので、訪れるなら事前に予約がおすすめ。リラックスしておいしい料理とお酒を楽しめる貴重な一軒です。
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キセツリョウリ サケドコロ サソウ
季節料理・酒処 さそう
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東京都世田谷区池尻2-30-12 OSビル1F
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東急田園都市線 池尻大橋駅より徒歩3分
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4,000円~6,000円
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定休日 不定休
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営業時間 18:30~23:00
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